超能力者にあこがれて

思い返すと、俺とSFとの出会いはやはり中学生の頃だったと思う。特に象徴的な出来事があったわけではない。気が付いたら、眉村卓の文庫を片っ端から読んでいる自分がいたというだけだ。たしかSF系の本は出版元に関係なく近い位置に並べられていたので、星新一筒井康隆小松左京をたまに手に取ることもあった。しかしいつの間にか、また眉村卓のわりと不安な結末をむかえがちな作品に引き込まれていくのだった。

眉村卓の代表作となるとやはり『司政官』に代表される司政官ものか、何度か映像化もされた『ねらわれた学園』『時の旅人』などのジュブナイルな作品群になるのだろう。もちろんそれらも好きで何度も読んでいるのだが、個人的な思い出と強くつながっているのは『不定期エスパー』だったりする。

 

不定期エスパー〈1〉護衛員イシター・ロウ (徳間文庫)

不定期エスパー〈1〉護衛員イシター・ロウ (徳間文庫)

 

 

不安定な超能力者である主人公が戦いながら成長していく物語、というのは短くまとめすぎかと思うが、何度となく苦しい状況に追い込まれてそれでも諦めない主人公イシター・ロウの姿にあこがれを、かっこよさを感じていた。性格的には真面目でどちらかというと融通が利かないほうだが、意志は強く頼りになるいいやつなのである。

この手の物語では主人公は強くヒーロー的な扱いを受けてとかく目立つ存在になりがちだが、『不定期エスパー』の場合むしろ逆に目立たないその他大勢の立場で、そのなかで自分の役割を果たしていくという地味さがある。この地味さはストーリーが進んでも一貫していて、だがしかし退屈さにはつながっていない。一人の青年が揺れ動く歴史の中で翻弄されつつも、自分の力で足を踏み出して未来を開いていく過程を確かめることができる。

先にノベルズ版が出されていたようだが、個人的には書き下ろしの前書きや後書きを読める文庫版をお勧めしたい。表紙のイラストのテイストも、こちらのほうがしっくりくる気がする。

 

自分の好きなものでもどこがどう好きなのかを伝えるのは難しい。思い入れが強ければなおさらのことと感じる。単純に「がんばって、イシターロウ!」と書けば上の文章も一行ですんだかもしれない。いつかあらためて再紹介したいと思う。